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『……なあ、部長。さっきからいったい何が言いたいんだ? 悪いけど、昔話なら別の日にしてくれ。これからまだ残業があるんだ』 『そうよ。大事な話があるって言うからわざわざ来たのに。部長、もしそういう話がしたいんだったら、今度、また改めて同窓会でもしよう。何も今、この忙しい時期にみんなを集めなくたって良かったじゃない』  どうやら、ひとりの同級生をめぐる自殺未遂事件が背景にあるらしいこの脚本を、けれど、未森の頭は途中からまったく別のものとして捉えていた。  ──だって、そこにいる彼らは、まさしく今の未森そのものだったから。  自分の過去や本性をほかのひとの目からひた隠しにし、今、自分がいる場所を失うまいと懸命にもがく若者たち。会社や学校という組織に属する以上、避けては通れない選択を繰り返しながらも、果たしてそれで良かったのだろうか、と自問葛藤する日々。  ──……ほら、怖くないよ。だからおじさんと一緒に行こう。  差し出されたぶ厚いてのひら。自分を捕えるために伸びてくる腕。激しい恐怖と混乱。息苦しさ。  フラッシュバックだ、と自覚したとたん、引きつるような悲鳴が喉からもれそうになって未森は慌てて口許を押さえる。ぐらりと視界がぶれて、とっさにしがみついた肘置きにすがりつくようにして何とか身を支える。 「──……未森くん?」
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