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 廊下を遠ざかっていく軽やかな足音を聞きながら、先程、失神する直前まで見ていた舞台の感想を述べると、その言葉が面映ゆかったのか、久遠の口許にふたたび穏やかな笑みが戻る。 「ああ、彼女は蓼科亜沙子(あさこ)っていって俺の大学の後輩。去年卒業して、今は小さな劇団に所属してるんだけど、演劇サークルのときからの縁で、今でもときどき今日みたいに手伝ってもらってるんだ」  あいつもそれ聞いたら喜ぶだろうな、と嬉しそうに独り言ちた久遠が、つと何かを思い出したように背後を振り仰ぐ。つられて、その目線の先にあるシンプルな壁掛け時計を見つけたとたん、未森は思わず久遠と顔を見合わせてしまった。 「……未森くん、そう言えば今日、コンビニのバイトがあるって言ってなかったっけ」 「……はい。うわ、やっちゃった」  ともに確かめた時刻は午後四時二十三分。ここから復路は、往路の一時間半プラスさらに大学からのぶんの一時間。どう考えても七時入りのシフトには間に合わないと悟って、未森は文字通り救護室の白い天井を仰いだ。
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