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 このままだと、彼に余計な心配まで掛けてしまうことは目に見えていたので、未森はとっさに口から出まかせを言う。うそも方便とはよく言ったもので、未森にとってうそを吐くことは笑顔と同様、自分を守り覆い隠す鎧として、いつの間にか習い性みたいに身に染みついたいわば処世術だった。  それに実際、今はひとりじゃないし、と罪悪感をまぎらわせる言い訳のように内心でつぶやいて、未森は背後にあるコーヒーチェーン店のガラス越しになかを覗く。路地に面した窓際のカウンター席、長い足を持て余し気味に組む黒いコートの背中がわずかに湾曲していて、あ、猫背なんだとおかしくなる。 『……未森? どうした?』  小さく吹き出したのが聞こえてしまったのか、またもや怪訝そうに声を上げる周防に何でもありません、と答えて、未森は向かいの正面にある大きな銀杏の樹を見上げる。  駅のロータリーに囲まれるようにして並ぶそれらは、クリスマス仕様なのか、早くも色とりどりのLED電球にライトアップされており、ときおり、きらきらときらめきながら黄色い葉を舞い散らしていた。 「それじゃあ、お言葉に甘えて今日はお休みさせていただきます。安積さんにもご迷惑かけます、って伝えといてください」 『ああ、あいつのことはいいって。……て言うか、あいつは、ひとに迷惑を掛けられる方じゃなくてむしろ掛ける側だから気にすんな』 「嫌だな、店長。またそんなこと言って。だめですよ、恋人をこき下ろすふりして惚気るとか」 『……おまえな、いい加減その発想から離れろ。俺は別に惚気てなんか──』
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