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 ──コンビニは、ただ通り過ぎていくだけの場所だ。  それは何も地元の人びとに限った話ではなく、週末や大型連休になれば、北は北海道から南は沖縄県まで日本全国津々浦々、さまざまな地域から訪れる観光客たちにも共通して言えることである。もちろん、この田舎町にはきわめて珍しいが、決して皆無ではない外国人旅行者たちにもまたしかりだ。  そして、ひととき、人びとが何の感慨もなく通り過ぎていく、ある意味マニュアル化されたこの場所こそ自分のような人間にはありがたい。ここでなら、きっともっと楽に呼吸ができるから。 「──お待たせしました。お次のお客さま、こちらにどうぞ」  ありがとうございました、と前の客をいつもの営業スマイルで見送って、佐野未森(みもり)はレジカウンター前に行儀よく一列に並んだ最前列で順番を待つ推定二十代女性を呼んだ。その手から夜食のスイーツと思われるさつまいもプリンとペットボトルの紅茶を受け取りざま、片手に持ったハンドスキャナーで素早く商品のバーコードを読み取っていく。 「こちら、袋はご一緒でもよろしいですか?」  一応、型崩れしやすいスイーツについては細心の注意を払わなければならないので、確認の意味も込めて未森が問うと、先程からこちらをぼうっとした様子で見つめていた彼女が慌ててはい、と小さな声で返事をする。それにありがとうございます、と笑顔で応じて、精算を済ませた彼女が店を出ていくのを見届けてから心のなかだけでそっと詫びる。  ──……ごめんね、女の子はお呼びじゃないんだ。
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