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「──……未森くん?」
気が付いた? と声を掛けられて、未森はまだ重苦しい瞼を意思の力でゆっくりと持ち上げる。ぼんやりとにじんだ視界のなか、久遠が心配そうにこちらを見下ろしているのに、つかの間、何が起こったのか分からず軽く混乱する。
「……あれ、久遠さん? 僕、何で……」
「覚えてない? 未森くん、公演の最中に気を失ったんだよ」
「ああ……」
徐々によみがえるおぼつかない記憶を探りながら、ここは? と小さく問うと、ホールの救護室だよ、と告げられ、一気に時間が巻き戻る。
「……未森くん? だめだよ、そんなに急に起き上がったりしたら──……」
「ごめんなさい。僕、もしかして大事な公演を邪魔しちゃったんじゃ……」
「そんなことはどうでもいい。──それより無理しないで。まだ顔色が悪い」
とんでもないことをしてしまったと血の気が引く思いで謝る未森の言葉をきっぱりと一蹴して、久遠がふらつく身体を支えようとしてか無意識にこちらに手を伸ばす。
けれどその瞬間、ふたたび脳裏をかすめた過去の悪夢に、気が付くと、未森はその久遠の手を思い切り振り払ってしまっていた。
「──……っ、……」
「……未森くん……?」
「……あ、ごめんなさい。僕……」
「ううん。俺こそ驚かせちゃったみたいでごめん。ねえ、とりあえずもう少し横になってた方がいい。自分でできる?」
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