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『──未森? 悪かったな。バックヤードにスマホ置きっぱなしにしてたから、おまえからの不在着信に気付いてなくて。で、どうした? 何か急ぎの用か?』  受話口の向こうから、なじみのある周防の声がやけにのんびりとした響きを帯びて鼓膜をくすぐる。それに奇妙な安堵を覚えながら、未森は今の自分の状況を説明すべくスマホを軽く握り直した。 「……店長、すみません。本当に急な話で申し訳ないんですけど、僕、今日のシフト、後ろに時間ずらしてもらってもいいですか?」 『え、ああ、今日は安積もいるし、それは別に構わないけど。何だ、学校の用事か何かか?』 「……いえ、実は僕、今、まだ東京にいるんです」 『は? 東京? 何でまたそんな……』  案の定、訝しさを隠さない周防にことの顛末をかいつまんで伝えると、具合が悪くなったというくだりで機械越しの声がにわかに曇る。 『おい、だったら無理しなくていいぞ。今日はもう休んでいいから。──それより未森、ちゃんと帰って来られるか?』 「嫌だな、店長。こう見えても僕、一応成人してるんですよ」 『そういうことを言ってるんじゃないだろうが。……今、ひとりか? 何なら、家族にでも連絡して迎えに行ってもらった方が──』 「……ああ、それなら心配しないでください。途中までは友だちが一緒ですから」
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