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公孫樹病
竜田あき、という学生がいた。
いた、というのはまぁお察しのとおり過去形で彼女はもういない。事故に遭ったワケでも素行が悪く退学処分になった──ワケでも、ない。大仰なイベントとは縁もゆかりもない一般人の筈、だった。それが竜田あきという人間だった。
別に緋色の研究がしたいだとか、雀蜂を青酸カリで除去したいだとか、兎角探偵の真似事をするつもりはないが……ただ、僕はいなくなった彼女の所為で病に侵されている。それは不治の病だ。
どこから説明しようか。
まずは、そう。彼女が過去形になった事から、話そう。あれは十一月十日、秋深まった頃合いだった、か。
***
「なんかアイツちょっと最近変なんだ」
「……変、とは」
きっかけは講堂を出たイチョウ並木での会話だった。相談を持ち掛けたのは中学時代の同級だった薄野である(ちなみに高校は違う。大学でばったり再会した時は二人そろって大笑いしたものだ。閑話休題)
「そしてあいつ、とは」
「あき。竜田あき」
話題の彼女はこの同級と高校からの仲だと聞いた。
「講義ン時ぼおっとしてるし、と思ったら急に振り返ったり。きょろきょろしたり」
「体調不良とかじゃなく?」
「うーん……」
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