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困ったとんぼは、そばに咲いていたツツジの花をつんで、
「お花を、どうぞ」
おそるおそる、チョウに差し出しました。
「まあ、ありがとう」
チョウがほっと笑うと、とんぼはくすぐったいような、とてもあたたかい気持ちになりました。
それから、ふたりは、並んで空を飛びました。
明るい夏の日差しが、ふたりを包みます。
ぽっかり浮かぶもくもくの雲も、ぴかぴか光っています。
ひららは、今日が今までで一番高い空を飛んでいるような気がしました。
「私はひらら。とんぼさんは?」
「名前なんて、ないよ」
「そうなの。じゃ、私がつけてあげるわ。そうね、くるる。くるくるの目だからくるる。どうかしら?」
「くるる? それが僕の名前? きみ、僕に名前をくれたの?」
「そうよ、くるる」
「わーい!」
くるるはぐんと羽を広げて、楽しそうに飛びまわります。
ひららは嬉しくなって、くるるのあとを追いました。
「ぼく、なんだか、今日が今までで一番高い空を飛んでいるみたいだ!」
くるるが言うと、ひららは、くるるが自分とまったく同じ気持ちでいたことに、またびっくりしてしまいました。
そうして、毎日、ふたりは遊びました。
けれども、短い夏が過ぎて、森の木々が赤く染まり始めると、くるるはどこかに行ったきり、帰ってこなくなりました。
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