12人が本棚に入れています
本棚に追加
チョウととんぼ
チョウのひららは、とんぼが嫌いでした。
自分と同じように空を飛んで、羽が生えているのもおんなじなのに、とんぼは虫を食べるからです。
花の蜜を吸って生きるひららには、とんぼはとても恐ろしい生きものに思えました。
つかまったら、きっと食べられてしまうわ。
ひららは、なるべくとんぼに近づかないように、気をつけて暮らしていました。
でもある日、花の蜜を吸うのに夢中になっていたひららの前に、いっぴきのとんぼが飛び込んできたのです。
ひららの足は、あんまりびっくりして、動かなくなりました。逃げたくても、逃げられなくなってしまったのです。
どうしよう、どうしよう。
たべられてしまったら。
ひららは、恐ろしくて震えました。
とんぼは、ただじっとひららを見つめています。
ひららは思い切ってこう言いました。
「とんぼさん、こんにちは。その、いい天気ね」
それを聞くと、今度は、とんぼがびっくりしてしまいました。
とんぼは、やっぱり、ひららを食べようとしていたのです。
でも、目の前にいるチョウは、自分にとても丁寧なあいさつをくれました。
とんぼは、誰かに親切にしてもらったことなんて、生まれてから一度もありませんでした。
自分に初めての親切をくれたチョウを、食べることなんて、もうできません。
最初のコメントを投稿しよう!