チョウととんぼ

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チョウととんぼ

チョウのひららは、とんぼが嫌いでした。 自分と同じように空を飛んで、羽が生えているのもおんなじなのに、とんぼは虫を食べるからです。 花の蜜を吸って生きるひららには、とんぼはとても恐ろしい生きものに思えました。 つかまったら、きっと食べられてしまうわ。 ひららは、なるべくとんぼに近づかないように、気をつけて暮らしていました。 でもある日、花の蜜を吸うのに夢中になっていたひららの前に、いっぴきのとんぼが飛び込んできたのです。 ひららの足は、あんまりびっくりして、動かなくなりました。逃げたくても、逃げられなくなってしまったのです。 どうしよう、どうしよう。 たべられてしまったら。 ひららは、恐ろしくて震えました。 とんぼは、ただじっとひららを見つめています。 ひららは思い切ってこう言いました。 「とんぼさん、こんにちは。その、いい天気ね」 それを聞くと、今度は、とんぼがびっくりしてしまいました。 とんぼは、やっぱり、ひららを食べようとしていたのです。 でも、目の前にいるチョウは、自分にとても丁寧なあいさつをくれました。 とんぼは、誰かに親切にしてもらったことなんて、生まれてから一度もありませんでした。 自分に初めての親切をくれたチョウを、食べることなんて、もうできません。
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