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順番が問題
「ねえ、知ってる? 駅裏でね。おばあさんがやってるテーラーの話」
同じ大学を卒業した菜佳子から電話がかかってきたのは、一週間前のことだ。
「ああ。あるね。駅裏のテーラー。長いこと、おばあさんが一人でやってるんだよね。でも、あそこ、腕はいいけど、すごく高いって話だよ。だから行ったことはないなぁ」
莉緒はあいかわらず遅い亭主の帰りを待ちながら、マンションの一室で時計をながめる。
夜の十一時半。今夜も輝矢は帰らないつもりか。
電話のむこうでは、まだ菜佳子が仕立て屋の話を続けていた。
「あのね! そのテーラーで喪服を作ってもらうとね。望んだ人の葬式に出られるんだって!」
「へえ。そうなの。すごいね」
てきとうに相づちを打ってはいるものの、話の意味はよくわかっていない。
どうでもいいが、菜佳子がえらく興奮している。めずらしいな、とは思った。
「まあ、喪服は葬式に着てくためのものだよね」と気のない返事をすると、とたんにキツイ声が返ってきた。
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