ソレ

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静かな夜 何もないひと部屋に、ぽつっと腰掛椅子に僕は座っている。 ただ僕から見て左側に階段があり、廊下に出ると”こちらからも””向こう側”からも見える。 座っているだけじゃない。 両手両足に、それぞれ金属製の輪が繋がっている。 右手で首筋をさわってみる。 冷たく、体温が感じられない。 同じ金属の輪……チョーカーとは違うが、そう言うのだろうか。 僕の腰掛椅子の後ろに扉があり、前には小さな窓がある。 後ろの扉は開かない。 首をまわし後ろを振り向く。 なんでも特注で造られた扉らしい、透明な防犯ガラスで設計されている扉だ。 何重も何重も……鎖で扉がバツ印を描くように扉を塞ぎ、交差する鎖の部分に南京錠が無数に掛けられている。 また、僕は腰の力を休めて前を向き腰掛にもたれる。 すぅ~と息をする。 テンポ良く呼吸を繰り返す。 右腕を上げる カチャッと擦れる音がする。 右腕と、右足が鎖で繋がれ、一定の距離までしか動かせない。 僕は階段を登る音を認識した。 首をまわし扉をみる。 両手……体……顔……すべての、全身を扉に押し付けて覗き込む”ソレ”がいた。 眼球を限界にまで飛び出させ、充血している。 僕から見て、右手を鎖に掴みノックするかのように動かしている。 疲れた…… 本当に……なんだろう”これ”は 真っ暗な部屋で、”どちら側”からも監視できる扉。 廊下だけが照らされる光、こちら側にか届かない。 またひとり、またひとり”ソレ”が増え続ける。 全身を扉に押し付ける。 いつか、扉が壊れ…… 僕の元へ押し寄せてくるんじゃないだろうか? ただひとつ……、なぜだろう。 両手で自分の顔を触れる。 ゆっくり、ゆっくりと上へと触っていく。 ぽっかり空いた二つの窪み。 息を吸う、指先に風を感じる。 息を吐く、生暖かい”何か”を指先に感じる あぁ……、僕にが眼球がないんだ。 眼球がない、じゃぁ何処へ行ってしまったんだろう。 僕は扉の”ソレ”から向き直り、前を向く 僕の”ソレ”はどこにあるんだろう。 僕はどうして、ここでこうしているんだろう。
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