甘い獲物

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「今日はこっちに泊まっていくんでしょ?」  差し出されたコーヒーを受け取って小さく唸った。 「お前がインフルだって言うから見舞いのつもりで来たんだ。でも思ったより元気そうだからどうしようか迷ってる」  高田は自分のカップをテーブルに置いて俺の隣に腰掛ける。同じ事務所にいたときもこの並び方だった。俺の左隣に高田。欠けたピースがしっくりはまるジグソーパズルにも似たこの感覚。 「仕事忙しいの?」  俺を心配する声と上目遣いに、ふわりと身体が温かくなった。俺は彼女の頭に手を伸ばす。さらりとした髪の感触が心地よい。 「まぁな。前任者からの引き継ぎがなくて」 「え? どういうこと?」 「そのまんま。俺の前任、体調不良で長期休暇中。だからこんな変な時期の異動なんだぜ」  そう言ってひょこりと首を竦めた。相模原への引き継ぎは二日間だったが、俺は引き継ぎというより、いきなりほぼ実践だ。客先への挨拶回りも新規飛び込みに近い状態だったし。
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