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『本当は加納さんじゃなく高田さんに訊くべきなんでしょうけど、今日も高田さん休みなんですよー』
「え? 今日も?」
高田という名前に反応する。なんだかんだ真面目な高田が忙しい月初に休みを取るなんて何かあったに違いない。
『インフルですよ、インフル。もう熱も下がったし行くからって言ってくれるんですけど、社内規定では五日間の休暇が義務じゃないですか。そしたら土日挟んじゃうんで来週なんですよ。うう、僕……』
「うるせぇ。ぼくぅじゃねぇ、この馬鹿」
『ふぇぇ……』
泣き言を言う相模原を一喝する。
(なんだよ。メールぐらい寄こしやがれ)
俺はちっと舌打ちをして、眼鏡のブリッジを押し上げた。
「じゃあ、教えてやるから今から五分間だけだ。一回しか言わねぇぞ」
『ありがとうございますっっ!』
キンと響く相模原の返事に、顔をしかめて耳から携帯を離した。返事だけは良いんだ、返事だけは。
「お前なぁ、もうちょっと小さな声でしゃべれよ。どこの決裁書だ? まずはそこからだ」
俺は頭に書式を思い出しながら相模原の相手をすることにした。
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