甘い獲物

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 高田はこちらに気付くことなく、くるりと背を向けて歩いて行く。 (完治してねぇくせに……ったく)  舌打ちをしてスマホをポケットに仕舞った。でも唇はどうしたって緩んでしまう。 (油断しすぎなんだよ)  俺は小走りに駆け寄って、背中から思い切り抱き締めた。膨らんだコートに俺の腕が沈み込む。 「きゃ!!! なななな何?」  くぐもった声が近くから聞こえた。 「インフルエンザのくせして、のんきに出歩いてんじゃねぇよ」 「ひゃっ! ひゃのう!?」  裏返った声が可愛い。 「ひゃのうって誰だよ」  抱き締めたままくつくつと笑えば、小さな身体は――今は着膨れていてデカいけど――俺の腕の中でじたばたと暴れる。 「何でいるのよ? ちょっと! 帰るなら電話位寄こしなさいよ」  マフラーとそこからはみ出した髪が俺の鼻を擽った。石けんが香る。
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