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普段他人なんて来ないし、まさか加納が来るなんて思ってなかったしとかぶつぶつ言いながら、高田はアパートに迎え入れてくれた。女の一人暮らしのくせにオートロックみたいなしっかりとした設備のない、ごくありふれた建物だった。いくらしっかり者だからって、可愛い高田のことだ、変な奴に目を付けられたらどうする。引っ越しを提案しよう。
「どうぞ」
小さなヒールが二足置かれていた玄関に俺のデカい靴を並べる。ピンク色のマット、パステルカラーのスリッパ、下駄箱の上には小さなクマのぬいぐるみ。心なしか良い匂いもする。そんな神聖な女子空間に男の匂いを付けていく。
「あんまり綺麗じゃないから、じろじろ見ないでよね」
ぐるぐる巻きのマフラーを外しながら高田が言った。
「分かってるよ。インフルで寝込んでた奴に掃除なんてできねぇだろ」
「加納は几帳面だから、小姑みたいに言いそうなんだもん。こうやって」
高田は俺に向かって人差し指を突き出して、ツーと横に動かした。ドラマなんかでよく見る嫁いびりをする姑の真似だろう。
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