甘い獲物

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甘い獲物

『お疲れ様です、加納さん。あの決裁書の件なんですが』 「お疲れ様。あの(・・)決裁書ってどれだよ? あの(・・)って」 『えっと。月初の……』 「殆どの決裁書が月初二日目だよ」  はぁとため息をついて眉間を揉んだ。電話の相手は俺の後任の相模原だ。今年度入社したばかりの新人で、ハキハキとしていて返事も良いのだが、如何せん実務が伴わない。部署が部署だけに会社の金を扱うことが多い以上、まだ新人だから仕様が無いという言い訳は通用しない。 (俺がたった二日の引き継ぎで投げてしまった所為もあるんだが)  異動が決まって一ヶ月はバタバタと忙しかった。新天地での業務説明に挨拶回り、後任(さがみはら)への引き継ぎと、年末のクソ忙しい時期にあっちと東京を行ったり来たり。あの日以来高田とゆっくり話す時間もとれなくて、気付いたら本社の渉外だ。  時期も時期だったから送別会は開かれなかったが、東京に来たら新年会と一緒くたにされた歓迎会が山ほど開かれた。皆の気持ちは嬉しいが、プライベートの時間がとれなくて困る。アパートにまだ開梱してない荷物があるんだ。信じられないだろ?
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