小さな友達

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それは新学期が始まったばかりの頃だった いつものように、私はバス停に行く 私の前に、すでに親子がバスを待っていた 赤色の真新しいランドセルを背負った、その子は 初めての通学に緊張しているのか、どことなく落ち着かない様子であった 私の前の、その女の子が、突然後ろにいる私のほうを振り向く 差し出された手の平には飴が1つ 「これ、あげる」 小さな友達が生まれた日であった 私はもう50歳 妻に先立たれ、今は独り身 友人も少なく、これといった趣味もない私は ただ黙々と日々を過ごしていた そんな私は、その小さな友達に会うのが楽しみになっていた 味気ない、代わり映えのしない日常に ささやかな幸せが訪れた 小さな友達の名前は「えっちゃん」という 山岸悦子だから、えっちゃんだ えっちゃんは、いつも飛びっきりの笑顔で私を迎えてくれる でも、仲良くなるにつれ、 おませで利発なえっちゃんは、私を対等な友達のように 怒ったり、ちょっとタメ口をきいてきたりする それが心地よい 二人が話すのは、バスが来るまでのたった数分 えっちゃんの乗るバスと、私の乗るバスは違うから それでも、 「じゃあ、バイバイ」 と言って別れるのが、少し寂しかった 紅葉がバス停に乱舞する頃 えっちゃんは心なしか痩せていて 心なしか元気がない 心配になったが、私にできることはない
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