故人は生者の幸せを願う

10/17
前へ
/49ページ
次へ
 クリフは逞しすぎる丸太腕に捕まって暴れていたけれど、そもそもの体格が違いすぎる。危険を感じたけれど、タコはまったくもって好意的な顔をしていた。 「俺、クリフ様にお礼が言いたくて!」 「おっ、お礼??」 「だってぇ、クリフ様に治療して頂かなかったら俺、どうなっていたか分からないんですものぉ。彼氏にも出会えなかったしぃ」  あ、こいつ女役なんだ。そして彼氏、強者過ぎるな。  全員が白い目になったのは、言うまでもないことだった。 「有り難う! う~ちゅっ」 「ぎゃぁぁ!」  クリフ哀れ。だが、相手は好意としてのほっぺチューなので、誰も助けに入れない。  タコはそのまま王都に向かって行ってしまった。 「南無三」 「もぉ、嬉しいけれど嫌だぁ」  クリフが珍しく泣いた日だった。  そうしていると他の人も帰ってくる。それは、気になっていた子達だった。 「あっ!」 「「ランバート兄ちゃん!」」 「え?」  遠くから複数の女の子、男の子。その中には一際長身の青年が二人いて、こちらを見ていた。 「イスタユブと、コチメトル?」 「おうよ!」 「お久しぶりです、ランバート様。その節は大変お世話になりました」  ニッカと笑うイスタユブの隣で、知性に磨きをかけた様子のコチメトルは丁寧に頭を下げる。かつて森の中で暮らしていた少年少女が、とても明るい顔でそこにいた。 「言葉、上手になったんだな」     
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

338人が本棚に入れています
本棚に追加