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「アルブレヒトさん?」
「この森は戦場に近い。故に影や臭いが流れてきて、私の感覚も狂ってしまうのですが」
「臭い?」
ランバートは鼻をヒクつかせてみるが、新緑の匂いしか分からない。確かに戦場などは酷い臭いがするものだ。主に血の臭いや木の焼ける臭い、腐敗臭というものだ。
だが流石にまだそんなものは臭ってこない。
「無念の思い。痛い、苦しい、助けて、死にたくない、どうして死ななきゃいけないんだ。憎い、悔しい、助けて、助けて。そうした訴えが流れてきます。声にならない声が集まって、臭いにもなって流れてくるんです。少し、気分が悪い」
「苦労をしますね、その体質は」
「往々にして人と違うということは、有益性よりも苦痛が多いものです。受け入れられないだけじゃない。他人では分からない感覚を自分でどうにかしなければいけないんです。これでも締め出しているのですがね」
辺りを見回し、フッと短く息を吐き出したアルブレヒトの瞳は辺りを気にし、疲れた顔を見せた。
しばらくして、ダンが一人の少女を抱えて戻ってきた。体にマントを巻き付けたその子はぐったりと意識がない。
ゼロスとボリスは妙に疲れた顔をしている。そこに僅かな血の臭いがした。
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