秘密基地

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高校を卒業し、都会の大学を出て、無事職につくことができた。その仕事も板についてきて、気づけば20代後半になっていた。学生の頃と比べるとここ数年は大した変化もなく、ただ毎日を、淡々と生きているような気がしてならない。さらに、歳を追うごとに感じる時間は、子供の頃と比べるととても早い。月曜日に憂鬱な気分で会社に行き、火水木金土と仕事をこなし、日曜日を待つだけの日々。とてもはやく、四季が巡っていく。そして季節は夏になっていた。夏を実感する間もなく8月も下旬に入り、お盆休みをもらった。女っ気の1つもない俺は、お盆くらいは実家に帰ると決めているので電車を乗り継ぎ、約4時間もかけて地元に到着した。見渡すかぎりの田んぼ、田んぼ、田んぼ。蝉が鳴く声を背中に受けつつ直射日光をサンサンと浴びながら、ぼーっと歩く。ここは、何年たっても何一つ変わっていなかった。懐かしい光景に少し頬がゆるんだ。今思うと、社会人になって喜怒哀楽の表現をあまり感じかなったように思う。笑うことはともかく、泣くことなんてここ数年なかった。普通に考えれば、代の大人が泣くなんて、と思うだろうが、俺は泣かなくなっていることが、自分の人間性を失っていることのようで、少しばかり怖かったのだ。だからか少しでも笑てえたことが、とても嬉しかった。考え事をしていたせいか、気がつくと実家の目の前だった。
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