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第四話 田んぼの神様
九月に入ってもまだうだるような暑さが続いていた。
それでも秋を感じるようになったのは、彼岸花が彩る田んぼの稲の穂が膨らんで、垂れ始めたからだ。
いつもだったら稲穂が黄金色に変わり始めると、いよいよ迫ってくる収穫を思い出してうんざりするものだ。
「ほーさく、かかしかかしー」
「あっ、こらたのん、さわるな。そんなに振り回したら、頭がもげる……」
「あっ、しもた。頭が取れた」
「だから、言わんこっちゃない」
学校から帰った俺は家の隣にある納屋でせっせとかかしを作っていた。
ばあちゃんが裏山から切ってきた竹を十字に組み立てて、藁で肉付けをして、服を着せたら完成、なのだが、これがなかなかうまくいかない。
紐の結び方が甘いようで、最初はすぐにばらけてしまった。
そんなかかしをたのんが振り回すもんだから、くくりつけた頭が落ちてしまった。
「ったく。かかしを作れって言い出したのはお前だろ。邪魔しないで、大人しくそこで見てろ」
「うううー、はぁい」
たのんは落ちた頭と胴体を俺に持ってきた。それらを差し出す小さな両手は色が違う。左手は透き通るように白いのに、右手は赤い。
あの雨の日からたのんはしばらく姿を消していた。
俺の発言を気にして、どこかに行ってしまったのだろうかと探し回ったが、結局たのんは見つからなかった。
だが、一週間後、入院しているじいちゃんの代わりに田んぼの様子を見に行くと、突然稲穂の間からたのんが飛び出してきた。
「ほーさく、なにしてるのー?」
と、無邪気に尋ねられた俺は答えていた。
「なにって、田んぼを見に来たんだよ。このまま放っておくわけにはいかないだろ」
そんな俺に、たのんはにっこりとうれしそうに笑ったのだ。
口にしてしまった手前後には引けなくなった、ということにしておいてほしい。俺は誰に言われるでもなく、黙々と稲作を続けている。じいちゃんが動けるようになるまでの間だけだ。
当のじいちゃんはと言えば、火傷の熱はだいぶ引いたようだが、足の骨がなかなか繋がらず、いまだに入院中だ。
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