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第三話 雨と雷
八月に入り、昼間なのにやけに暗いなと思えば、風に乗って真っ黒い雲が流れてきていた。
「はらまあ、雨が降ってきたよ」
「洗濯物入れなきゃ、濡れちゃう。実、手伝って」
「はーい。あ、お母さん、布団も干してあるよ!」
階下で交わされる女性陣の声を聞きながら、俺はネットで動画を見ていた。今期のアニメはおもしろいのが多い。勉強の合間にほっと息をつく大切な時間だ。
「はわ~~~、風神様雷神様のおなりじゃ」
たのんは窓に顔をべったりとくっつけて外を見ていた。たのんの言うように、風に吹きつけられた雨粒が窓を濡らす。
次の瞬間、カメラのフラッシュのような光が一瞬部屋中を照らした。
「ぎゃっ!」
驚いてイスから飛び上がってしまった。
次の瞬間、ゴロゴロと腹に響く低い音がこだまする。
「マジか、雷まで、心臓に悪いな……」
俺は見ている途中だったアニメを中断して、大人しくパソコンの電源を切った。またもや稲光がすると、身体が勝手にびくっと反応してしまう。子供の頃から雷は苦手だ。幸いなことに、雷はまだ遠くにいるらしく、音が聞こえてくるのは遅い。
「豊作―、大丈夫―?」
階下から母の声がした。
「……だ、大丈夫大丈夫。平気だ。なんともない!」
「あらそう。お母さんこれから、実と買い物に行ってくるからね。ばあちゃんと留守番しててね」
「分かった! 気をつけて!」
大声で答えると、やがてバタバタとしていた階下が静かになり、代わりに雨音が大きくなった。たのんは雷も平気なようだ。窓際に張り付いたままじっと外を見ている。
「ほーさく」
「うん? どうした?」
たのんが窓にくっつけていた顔を向けた。
「おかーさんと実が出ていった」
「ああ、うん。買い出しに行くんだと」
「じーちゃんも出ていった」
「え?」
たのんの隣に並んで窓の外に目を向ける。ざあざあと降る雨の中、カッパを着込んだじいちゃんが今まさに軽トラに乗り込むところだった。
「どこに……」
行くのかと、尋ねなくたって分かる。
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