第三話 雨と雷

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 俺は自分の部屋を出ると、階段を駆け下りた。  「ほーさく」と、たのんが背中にくっついてきたので、重さでバランスを崩し、転げ落ちそうになった。玄関にはばあちゃんが心配そうな顔をして立っていた。 「ばーちゃん、じーちゃんまで出てったの?」 「ああ、豊作。うん、今ね、ちょっと田んぼの様子を見てくるっち言って」 「何でこんな雨の中、わざわざ出て行くんだよ」 「そいはほら、こげん集中して雨が降れば、用水路の水が溢れるかもしれんし、稲の様子も気になるっち言って……」  ばあちゃんは必死で止めたのだろうが、言い出したら聞かないのがじいちゃんだ。  俺は舌打ちした。 「ちょっと田んぼの様子を見てくるってセリフ、完全にフラグじゃんか」 「ふらぐ?」  言葉の意味が分からずばあちゃんが首を傾げていると、再び稲光がした。一瞬俺は肩を縮こませる。 「雷神様、だいぶ近かよ」  俺の背中にしがみついたままのたのんが言った。 まじか……、くそう、雷め。 俺は自分の胸に手を当て、動機を抑えると深く息を吐き出した。 「ばあちゃん、俺もちょっと田んぼ行ってくる。フラグを回避してくるわ」 「はあ? 豊作、なに言うちょっと。危なかし、雷が鳴っちょうよ」 「大丈夫大丈夫。じいちゃんを連れ戻してくるだけだから」 「でも……」  何事も勢いが大事だ。というか勢いをつけないと、足が動かなそうだった。俺はさっさとカッパを着込むと長靴を履いて、家を飛び出した。 「よぅし、ほーさく、いざすすめ!」  俺の肩に乗ったたのんが言い、しゃもじを前に突きだした。雨風の心配はなんのその。たのんは見えない力で守られているようで、濡れることがない。たのんと一緒にいることで、俺も濡れることなく田んぼに到着した。
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