3人が本棚に入れています
本棚に追加
/68ページ
驚いてじいちゃんを見れば、じいちゃんは顔を真っ赤にして憤怒していた。
「そげんことなか。おいが育ててる『あきほなみ』じゃって、そんうち、全国にその名をとどろかせる米になっとよ。日本一の米になっとよ。そんために、毎日毎日、こうして愛情込めて米作りをしちょっとじゃ。毎年、今年はおいしい米になれっち願いを込めちょっとじゃ。それを、お前という奴は……」
額に青筋を立てたじいちゃんは、言いながらずかずかと俺に近づいてきた。
そして、あっという間の出来事だった。
左頬に衝撃があって、次の瞬間には田んぼの中に倒れていた。
呆然としている俺を見下ろしたじいちゃんは、肩で息をしながら言ったのだ。
「そげん奴に田んぼを手伝われたくなか。出て行け!」
売り言葉に買い言葉だった。
「そんなの願ったり叶ったりだ。一生田んぼなんか手伝うか!」
俺はじいちゃんに言い返すと、その日も同じように田んぼを飛び出して、家とは反対方向へと走り出したのだ。
あの日と同じように逃げ出して、たどり着いたのは郡山八幡神社だった。
石作りの鳥居を抜けて、参道を抜けると朱色の社殿にたどり着く。
雨と雷がすごいので人の姿はない。
ひとまず雨をしのごうと、社殿の軒下に膝を抱えて座り込んだのが少し前のことだ。
「はあ」
溜息しか出ない。
やっちまったって気持ちと、やられたって気持ちがない交ぜになって、なんとも言いがたい感情が胸に渦巻いている。
最初のコメントを投稿しよう!