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「いや、やっちまってない、よな。俺は……、今回は、悪くない」
でも、こんなことになるのなら、やっぱり。
「田んぼなんか手伝わなきゃよかった」
そう思ってしまう。
「そげんことなかよ」
「うわぁ!」
突然聞こえた声に驚いた。田んぼに置いてきたはずのたのんが、俺の隣にちょこんと腰かけていた。
「そげんことなかよ。ほーさくが田んぼを手伝ってくれたこと、じーちゃんはうれしかったから」
黄金色の瞳を瞬かせてたのんは言う。
「うれしくは、なかっただろ。たのん、適当な慰めはいらないから」
「適当じゃなか。あたいには分かる。じーちゃんはうれしかった。でも、それをうまく言えんだけで……」
「じゃあ、なんで殴られるんだよ。それにじいちゃんは、俺のことを許してはいないって言ってただろ。俺が昔ひどいこと言ったのを、ずっと根に持ってるんだ」
「あいは気持ちと裏腹じゃ。ほーさくが昔、なにを言ったかは知らんけど……」
「田んぼとかどうでもいいって言ったんだ。有名な米所でもないこんな土地で、日本一の米を作れるわけがないって。手伝いなんかやってらんねぇって。田んぼなんか一生手伝わないって、俺は言ったんだ」
たのんがはっとしたように息を呑んだ。
「だから最初に言っただろ。米作りなんか興味ないって。むしろ嫌いだって。俺なんかに頼むのが間違ってたんだよ。そんなに手伝ってほしかったら、実でも晴でも、やる気のある奴に頼めよ」
俺は投げやりに吐き捨てると、膝に顔をうずめた。
雨に濡れた身体は冷たいのに、左頬はまだじんじんと熱い。
もうどうにでもなれと思った。
どれくらいそうしていただろう。
遠くで雷が落ちる音が聞こえた気がしたが、うとうととまどろんでいたせいで、それが夢か現実なのか分からなかった。
そのうち、誰かが俺の肩を揺さぶった。
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