第三話 雨と雷

7/12

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/68ページ
「――――さく、ほうさく、豊作、起きて」  膝から顔をあげると、薄茶色の瞳と目が合う。 「……晴?」  赤い傘をさして俺を覗き込んでいたのは晴だった。 「うん。よかった、やっぱりここにいた」 「やっぱり?」 「やっぱりだよ。豊作は昔からなにか嫌なことがあると、いつもここの神社にいるじゃん」 「嫌なこと」  そこまで言われて俺はじいちゃんとの一件を思い出した。 「そうだ、じいちゃんに……」  左頬はまだ痛みが残っていた。  晴は事情を察している様子で最後まで聞かずに頷くと、きゅっと表情を引き締めた。 「豊作、そのおじいさん、耕造(こうぞう)さんのことだけど、落ち着いて聞いてね。実はさっき、田園家の田んぼに落雷があったの。それで、耕造さんが病院に運ばれたの」 「は?」 「詳しいことはまだ分からないんだけど、耕造さんも雷に打たれたみたい」 「……いや、いやいや、なんの冗談だよ? 笑えないって」 「冗談じゃないよ。こんな冗談、私は言わない」 「それは、そうだけど。まじか……」 「うん。私がたまたまおつかいを頼まれて豊作の家に行ったら、二人が田んぼに行ったっきり戻ってこないって、心配してて。みんなで田んぼに向かう途中に落雷があって、耕造さんが田んぼの中に倒れてて、でも、近くに豊作の姿がなかったから、手分けして探してたの」 「……晴、俺」 「一緒に行こう。みんな豊作の心配もしてる。さっ、立って」 「でも」 「でもじゃない。行くの」  晴は俺の腕をつかむと、無理矢理立ち上がらせた。  ずっと同じ体勢でいたせいで、足がしびれてふらついた。  晴は赤い傘をたたむと、俺の腕を引いて走り出した。俺は連れられるままに足を動かす。  雨はやんでいた。  たのんの姿はどこにもなかった。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加