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「――――さく、ほうさく、豊作、起きて」
膝から顔をあげると、薄茶色の瞳と目が合う。
「……晴?」
赤い傘をさして俺を覗き込んでいたのは晴だった。
「うん。よかった、やっぱりここにいた」
「やっぱり?」
「やっぱりだよ。豊作は昔からなにか嫌なことがあると、いつもここの神社にいるじゃん」
「嫌なこと」
そこまで言われて俺はじいちゃんとの一件を思い出した。
「そうだ、じいちゃんに……」
左頬はまだ痛みが残っていた。
晴は事情を察している様子で最後まで聞かずに頷くと、きゅっと表情を引き締めた。
「豊作、そのおじいさん、耕造さんのことだけど、落ち着いて聞いてね。実はさっき、田園家の田んぼに落雷があったの。それで、耕造さんが病院に運ばれたの」
「は?」
「詳しいことはまだ分からないんだけど、耕造さんも雷に打たれたみたい」
「……いや、いやいや、なんの冗談だよ? 笑えないって」
「冗談じゃないよ。こんな冗談、私は言わない」
「それは、そうだけど。まじか……」
「うん。私がたまたまおつかいを頼まれて豊作の家に行ったら、二人が田んぼに行ったっきり戻ってこないって、心配してて。みんなで田んぼに向かう途中に落雷があって、耕造さんが田んぼの中に倒れてて、でも、近くに豊作の姿がなかったから、手分けして探してたの」
「……晴、俺」
「一緒に行こう。みんな豊作の心配もしてる。さっ、立って」
「でも」
「でもじゃない。行くの」
晴は俺の腕をつかむと、無理矢理立ち上がらせた。
ずっと同じ体勢でいたせいで、足がしびれてふらついた。
晴は赤い傘をたたむと、俺の腕を引いて走り出した。俺は連れられるままに足を動かす。
雨はやんでいた。
たのんの姿はどこにもなかった。
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