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「豊作って、普段は澄ましてるっていうか、なんでも平気そうなのに、意外とビビりだもんね」
「うるさい。余計なお世話だ」
「それなのに、たまにすごく勇気のある行動するから、驚いちゃう」
「はあ?」
暗闇にだいぶ目が慣れてきたようだ。
明かりがなくても、前を向いた晴の髪を、風が揺らしたのが分かった。
「豊作は昔から雷が大の苦手なのに、そんな雷が鳴る中家を出て行った。それだけでもびっくりするのに、危ないからって、耕造さんを連れ戻しに行ったんでしょ」
「まぁな。連れ戻すとか、甘かったけどな」
「耕造さんは、連れ戻されるのを嫌がったの?」
「だな。知っての通り、頭ガチガチのジジイだから」
「でも、豊作はなんとか説得しようとしたんじゃない?」
「……まぁ。バカだよな」
「誰がバカなの?」
「俺が」
俺は足元に落ちていた石ころを蹴飛ばした。
「俺が、バカだったって思う。なんで説得できるなんて思ったんだろう。結局また、中学ん時と同じことを繰り返すはめになって、マジでバカだ」
「田んぼなんてやってられっか、って、また言っちゃったの?」
「言ったような、もんだな。少なくともじいちゃんは、そう受け取ったと思う。俺のことを許してないって言ってたし。田んぼに入られるのも、本当は嫌だったんだと思う。邪魔だ、帰れって言われた」
ははは、と出たのは、乾いた笑い声だった。
「だから、俺はじいちゃんをそのまま田んぼに残して、あの場を去ったんだ。まさか、こんなことになるなんて、思いもしなかった」
だれが、想像できた?
まさか本当に、じいちゃんが雷に打たれるなんて。
あんな痛々しい姿になるなんて。あんな、覇気のないじいちゃんを見たのは、はじめてだ。
「……俺の、せいで」
「違うよ」
ぴしゃりと晴が言う。
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