第三話 雨と雷

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 立ち止まった俺の前に立つと、晴はじっと俺の目を見つめてきた。 「違うよ。豊作のせいなんかじゃないから、絶対違うから。あれは事故」 「でも」 「でもじゃない。豊作はきっと、自分のせいにしてしまうって思ってた。だから、私はそうじゃないって言わなきゃって思ってたの。あれは事故だよ。だって自然現象だもん。人間がどうこうできる問題じゃない。豊作は確かに耕造さんを迎えに行った。帰ろうって説得した。だけど、それを聞き入れないで田んぼに残ったのは、耕造さんの意思でしょ。豊作がどうこうできることじゃなかった。そして、偶然起こってしまった、事故だよ。豊作のおじさんもおばさんも、おばあちゃんも、実ちゃんも、みんな分かってる。だから、豊作を責めたりしなかったでしょ」  確かに誰も、俺のことを責めたりしなかった。  だけど、それは……。 「責めたって、仕方ないって、思ってたから、だろ。俺が、自分勝手なことは、家族の誰もが知ってる。田んぼの手伝いなんかやってらんねぇって、投げ出すような奴だ。こんな田舎なんか嫌だ、さっさと都会に出たいってそればっかで、学校行く以外は家にこもってるような奴だ。じいちゃんのことだって、すぐに見放したんだろって、思ったんだ。だから、そんな奴になに言ったって仕方ないって、諦めて……」 「豊作が殴られてたからだよ」  晴は俺の両手をぎゅっと握った。その反動で、俺は手から懐中電灯を落としてしまった。 「左頬、まだ腫れてるよ。薄紫色になってる。唇の端だっって、切れてる。神社で豊作を見つけて、泥だらけで左頬を赤くした豊作を見た時、すぐに分かった。耕造さんは、また豊作に手をあげたんだって。豊作がまた、耕造さんの癪に障ることを言ったのかもしれない。だけど、だけどさ……。耕造さんを心配して連れ戻しに来てくれた豊作を、なにも殴らなくたっていいじゃない。豊作のおじさんもおばさんも、誰も豊作を責めてなかったのは、それが分かってたからだよ。耕造さんとは昔のことがあるのは知ってる。許せないのも分かる。だけど、だからって、豊作を傷つけていいことには、ならないよ」  晴の両目はうっすらと光っている。
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