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そして、再会したその日からたのんの右手は赤かった。
なぜ、たのんの右手は赤くなってしまったのか。
さらに言えば、しゃもじも持っていない。その理由を何度尋ねてもたのんは教えてくれなかった。俺がじっと右手を見つめていると、たのんはさっさと手を引いて、積んである藁の上に腰を下ろした。
「よし、これで大丈夫だろう」
たのんが落とした頭を結わえ付けて、次のかかしに取りかかる。八月の後半から作り始めて、これで十体目だ。
「先はまだ長いなぁ」
たのんはかかしがたくさん欲しいと言ったのだが、このペースでいくと、うちの田んぼ全てにかかしを行き渡らせる頃には年が明けてそうだ。
「ねぇ、ほーさく。たのんのかかしも作ってよ」
「たのんのかかし? そんなの作れるわけないだろ。赤い着物だってないし」
「えー、なんとかならんの? ほーさくなら作れるよ」
「いや、俺の技術をその目でしかと見ただろ。俺はこういう細かい作業は、マジで向いてないんだ」
「確かにね」
答えた声にびくっと肩が跳ねた。
背後にはいつの間にか実が立っている。その瞳はじとりと据わっていた。
「こんなヨレヨレで今すぐにでもぶっ倒れそうな、お兄ちゃんに似たかかし、見たことないよ」
「う、うるせぇ。ないよりましだろ」
「まあね」
実は手にしたお盆に麦茶の入ったコップを乗せていた。
それと、せんべいやチョコや飴の入った皿をお盆ごと手渡してくる。
「ありがと」と受け取って、俺はさっそく麦茶を飲み、チョコを口に放り込んだ。
たのんが目を輝かせてこっちを見ている。
実が見ていない隙にあめ玉を一個投げてやった。
たのんは包みを開けると飴を口に含んで幸せそうな顔をする。
「で、なにが作れるわけないの?」
「へ?」
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