第四話 田んぼの神様

4/5
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/68ページ
「で、たのんはどんな人なの? そもそも男、女? 大人、子供? 髪の長さは、色は、着てる服は?」  矢継ぎ早に繰り出される実の質問に答えていくと、ものの数分でたのんの原型が完成した。  赤い着物は実が小さい頃に着ていた浴衣を代用して、微調整を加えると、現れたのはたのんだった。 「おおおおおお~~~」  たのんが興奮した様子で声をあげる。  俺も同じ気持ちで「おお」と、声を出した。  頭の上には茶色のベレー帽、運動会なんかのポンポンでよく使うスズランテープを裂いて作った長く白い髪、くりっとした黄金色の瞳と小さな鼻、さんくらんぼ色をした唇は油性ペンで書いたものだ。  手には小さいながらもしゃもじを持たせた。 「これが、たのん」  実がたのんのかかしを見上げてつぶやく。 「はれまあ」と、手伝いに来てくれたばあちゃんが目をぱちくりとさせた。  たのんのかかしができあがる頃には、ばあちゃんの他に母と晴もその場にいた。 「豊作、こいは、たのかんさぁじゃが」 「へ? あ、うん。たのんは俺が略して呼んでただけで、本名はそんな名前だったけど……」 「まこてな!」  ばあちゃんはびっくりした顔をする。  え? なに? たのかんさぁってそんなに有名人だったの? というか、ばあちゃんは正体を知っているの? 「豊作」と、やはり驚いた顔をしている晴が言う。 「たのかんさぁっていうのは、田んぼの神様のことだよ。ほら、この辺りでもよく置いてある、石作りの、お地蔵様みたいなのだよ」 「田んぼの神様?」 「うん。田んぼの神様、田の神様、鹿児島ではそれをたのかんさぁって呼ぶんだけど、それじゃあ、豊作が一緒にいる、たのんって子は……」  話題の中心にいるはずのたのんは、自分のかかしをじっと見上げていた。  赤い右手でかかしに触れると優しく叩く。  それからに満足そうに笑った。 「ほーさく、いいできじゃ。こいなら田んぼを守れそうじゃ」
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!