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歩は高校生になると、時間があれば写真を撮っているような、カメラ小僧に変貌した。風景、自然、食べ物、文房具、そのへんに落ちている石だって、歩にとっては素晴らしい被写体になった。でもとくに気に入った被写体は、サッカーをしているときの奏多だった。
ふたりは高校の三年間、同じクラスだった。浜田を加えた三人でグループになって、校内ではいつも一緒に過ごしていた。
歩は放課後に、校庭に赴いてサッカーの練習を見学しに行った。奏多の走っている姿、シュートしている姿が好きだった。よくファインダーにも納めていた。
試合前の練習中、いつものように歩がカメラを構えていると、奏多がゴールに向かってシュートを打ち始めた。一本、二本、三本、と歩は数えたが、半分以上シュートは枠外に打っていた。
――相変わらずシュートが下手だなあ。
他は良かったのだ。ドリブルもパスも走力も。シュートだけがうまくいかない。
練習を終えて奏多が帰るところに、歩は声をかけた。
「お疲れさま」
ペットボトルのお茶を差し入れて、歩は奏多の隣を歩いた。
「サンキュ。今日も見てたな。どうだった?」
心なしか、奏多は元気がないようだった。いつもはアヒルっぽい口角で、笑っているような顔なのに、そのときは伏し目がちで、口もへの字になっていた。
「シュート、外しまくってたな。もしかして、足に問題あったりする?」
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