3

1/18
739人が本棚に入れています
本棚に追加
/215ページ

3

 休み明けの火曜日。  歩はオフィスビル街にある、地下鉄の地上出口の前で、得意先にアポ取りの電話をかけていた。  同じ千代田区エリアの同僚が突然辞めたせいで、彼の担当していた得意先も、一時的にだが受け持つことになったのだ。向こうの人事担当に挨拶がてら、就業中のスタッフにも何か問題がないか聞いておこうと思った。 「――はい、今日の午後三時ですね。承知致しました――失礼します」  歩は、相手が受話器を置いたのを確認して、通話を切った。  今日電話をしたのに、今日会ってくれるという。有難い。  歩は自分の手首を見た。そこには恋人からもらった時計が巻かれている。  今朝、歩の部屋から出て行くときに真司が着けてくれた。  文字板は黒、時字と分針、秒針は白で、シックだ。でも、ベルトは黒い皮で若者向けの印象を受ける。だが、ケースとかんは銀色で高級そうだ。文字板をよく見ると、『BREITLING』というブランドロゴらしき文字が刻印されている。ビジネスでもレジャーでも使えそうなデザインだ。     
/215ページ

最初のコメントを投稿しよう!