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 呼び止められ、一気に憂鬱になる。鞄と上着を持って、小太りの上司についていく。連れてこられたのは会議室だった。広い室内の隅に立っていると、突然上司は私に頭を下げる。 「君に仕事を任せ過ぎてすまなかった」  唐突すぎて口が空いてしまい、そこから間抜けな声を漏らした。 「具体的には言えないが、外部の人間から遅くまで職場の電気がついていて、君がいるという話があって」  もしかして・・・・・・。思い当たる人を浮かべながら、上司の説明を聞いていると何度かドアをノックされる。上司がドアから顔だけ出して、社員と話をしていた。首を傾げ見ていると、話を続ける。 「今、監督官が来ているんだ。だから、明代さんに指示している暇がなくてね。ここまで来てもらって悪いけど、今日休みで大丈夫だから」  上司は言い残し、会議室を出ていく。私はしばらくぼんやりと立ち尽くしていた。せっかくだから、休むか。会議室を出て上着を羽織ると、出社する社員をよそに職場をあとにする。軽やかに階段を下り、外で伸びをした。改めて空を見上げる。  ふと、彼にちゃんとお礼が言えてないことを思い出す。でも、『ボクと会うようなことはするなよ』って言っていたし、また迷惑かけないようにしないと・・・・・・。  あることを思い立ち、歩き始める。そんな私を太陽が見守るように暖かく照らしていた。   おわり
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