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 半ば抱き締めるように私を起こす彼の声は若かった。ゆっくりと階段に立たせると、男の人はヒールや鞄を拾いに行く。私はその若者に違和感を覚えた。11月の寒空の下、彼は白いワイシャツにベージュのズボンのみ。しかも、裸足で階段を上がり下りしている。よりによって変な人に助けてもらったな。私も階段を降りて、自分の荷物を取りに行く。 「すみません。大丈夫なんで」  目を合わせないように俯きがちに、鞄とヒールを受け取ろうとする。しかし、男は掴んで離さない。何、こいつ、気持ちわる。私が睨みつけようと顔を上げると、目があった。癖のある黒髪に、長い前髪から見える切れ長の目。驚きで荷物を持っていた手が緩む。彼はその薄い唇から言葉を発した。 「本当に、大丈夫?」  その声は胸の中に入り込んでくるように澄んでいる。胸が高鳴るのに、妙に落ち着いてしまった。ふと、彼の奥にある電光掲示板に目をやる。もうすぐで乗る予定の電車が来てしまう。 「だ、大丈夫ですから」  私は鞄とヒールを無理やりもぎ取ると、階段を降りていった。降りてすぐアナウンスが流れる。 『まもなく3番線に電車が参ります。危ないので、黄色い線の内側まで下がってお待ちください』  あと、もう少しで来ちゃう。ヒールを履き直し、黄色い線に沿って走り出した、つもりだった。 2歩目の踵に力が入らず、滑っていくように斜めに倒れていく。身体が徐々に黄色い点字ブロックからはみ出していった。電車の警笛が鳴る中、私は倒れていく。次の瞬間、いつの間にか黄色い線の内側に引き寄せられた。 「ほら、やっぱり大丈夫じゃない」  倒れそうになっていた私を抱えていたのは、先ほどの彼だった。さっきまで階段辺りにいたはずなのに。行き交うサラリーマンの目線を感じ立ち上がると、またふらつく。足元を見ると、左のヒールの踵が取れていた。 「どこか休めるところを行こう」  男の人は優しく声をかけ、手を引こうする。このままだと、何かされる。逃げ場を探していると、丁度電車のドアが開き、乗客が乗り降りしていた。 「帰るだけだから結構です」
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