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「なんで、こんなところまでついてきてるのよ」
「危ないから進まないで」
何を言っているの。私が横断歩道側を向いた瞬間、爆音と共に大きなトラックが目の前を横切った。その突風で髪がなびく。トラックはあっという間に遠くへ行ってしまった。
あと、一歩でも前に立っていたら……。背筋がゾッとしてその場にへたりこむ。
「ほら、言っただろ」
彼は初対面のときと変わらない澄まし顔で私を見つめた。なんで私にはついてくる、というか私を助けるの。すると、彼は私の腕を肩にかけ、立ち上がった。
「君の家はどっちだ。もうそこへ行った方が早い」
彼に訊かれ、指を差す。住宅街の中にあるアパートを確認すると歩き始めた。角を曲がり3階建てのアパートが見えてくる。私は戦場から帰ってきた兵士のように担がれていた。いつもは強引に上がっていたはずの階段も上手く足がかからない。
私、こんなに疲れていたんだ。なんとか自分の部屋まで到着し、鍵を開ける。玄関の明かりをつけると、畳まれていない洗濯物が散乱していた。つい面倒になって片付けていなかったんだ。
「早く中に入って」
ただ、送ってくれるだけじゃないの。断りたくても、その元気がない。片方のヒールを脱がされ室内へ入っていく。そういえば、この人裸足だったはず。咄嗟に床や彼の足元を見た。しかし、足跡や汚れなどはない。ふと、顔を上げるとカーテンレールに洗濯ハンガーがかかっている。そこにかけられていたのは複数の下着……。
「部屋の様子からしても、全然大丈夫じゃないだろ」
改めて、男性に見られていると実感した私は、恥ずかしくなって彼から離れた。そして、洗濯ハンガーを取ると、背中に隠し持つ。彼は不思議そうに首を傾げた。
「別にそんなの見ても、なんとも思わないよ」
その澄まし顔に妙に腹が立ってくる。
「ここまでありがとうごさいます。あとは大丈夫ですから」
私が彼を押し出そうとしたそのとき、自分の身体から力が抜けた。洗濯ハンガーをその場に落とし、倒れ始める。まるで電源を抜かれたロボットのようだ。それを彼は優しく受け止める。
「こっちが用あるのは、ここからなんだよ」
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