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先ほどのうどん屋に逆戻りした六兵衛。
「こちらの店でございます」
「へいらっしゃ・・・・。この度はまことにどうも私どもの粗末な小屋にお越しいただき・・・」
主人の変りぶりからも役人がちょっとやそっとの人物でないことがわかる。
「ここか。狭苦しいところであるな」
店内を細かくチェックしながら奥へ進む役人。
「六席ほど空いておらぬか?」
「は、はい。ではこちらへ」
奥で食べ始めたばかりの客のうどんをどかして6つ分席が空いたところで役人がお付きのものに合図をすると、その者は大急ぎで店を出ていった。イヤな予感しかしない。
店の入り口で狛犬のように固まって身動きのとれない主人と六兵衛。
六兵衛は店の人間ではないのだが、この場を去れない空気を刺さるように感じていた。
やがて遠くに姿を現したのは見たこともないような豪華な駕籠(かご)であった。
目を閉じるうどん屋の主人。
単なる通りすがりの駕籠(かご)であることを願う六兵衛。
しばらくして担ぎ手の声が狛犬の前でピタリと止まった。
引き戸が開いて出てきたのは目もくらむような金色を着た何かであった。
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