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厨(くりや)に戻った主人がどんぶりを握りしめてそわそわしていると、裏口から飛び込んで来たのは六兵衛であった。
「ところてん買ってきたぜ」
両の手にダイレクトに盛られたところてんをどんぶりに投げ入れ、蜜をかければ「甘いうどん」の完成である。
主人はどんぶりを盆にのせてなにくわぬ顔でお大名に献上した。
「ほう、これが甘いうどんか」
役人も興味深々である。
お大名の食事中少し離れたところでそれを見守る主人と六兵衛。
針のむしろというのはこういう状況のことであろう。
うどん・・ということになっているところてんを箸で持ち上げてじろじろ眺めているのを見ていると、それだけで生きた心地がしない。
やがてお大名が二口 三口それをすすると役人を呼び寄せ耳打ちをした。
しかめっ面の役人がこちらに近づいてくるのを見て、二人の寿命は10年縮んだ。
「殿はたいへんお気に召したそうだ」
二人の寿命は5年ほど戻った。
「ところであぶらげがのっておらぬようだが」
「今お持ちいたします!」
主人はダッシュで油揚げを取りに行った。
「後乗せでございやす」
よくわらかない六兵衛のフォロー。
お大名は油揚げを箸でつまみ上げて不思議そうに眺めた後、またもや役人を呼び寄せ耳打ちをした。ジロリとこちらをにらむ役人。
さきほどいったりきたりした寿命も今日でおしまいか。
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