10years after

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「いいよ。あっちで話そうか?」  私は視線で店の奥に見える中庭を指し示す。  ガラス戸が開け放たれた先、明るい日差しが降り注ぐそこには、真っ白なテーブルクロスをかけられた大きなテーブルの上にカラフルなデザートたちが何やら楽しげに並んでいる。中庭を囲むように植えられた木々の緑の葉も、設置された白いベンチも、なかなかに乙女心をくすぐる。  何より会が始まったばかりのこの時間にデザートに向かう人は少なく、二人で話すにはちょうど良さそうだった。 「あっち…あぁ、デザートあるんだ!チョコフォンデュやってみたいかも」  テーブル中央にそびえ立つチョコの噴水を見つけ、彼が楽しそうに笑った。  その笑顔に、名前も思い出せない私の胸はキュッとつねられたような痛みを感じる。  彼の名前を一度も呼ばないままに、私は彼と並んでざわめく会場を抜けていく。  少し眩しいな、と空を見上げていると、「俺、チョコフォンデュ始めてなんだよね」と言ってマシュマロの刺さった竹串を手に取った彼が声を弾ませた。  木々の緑の香りと庭に咲く秋の花の香りをチョコレートの香りが包み込む。自然いっぱいの爽やかさと惹き寄せられるような人工的な甘さが混ざり合い、現実ではないようなどこか不思議な心地になる。  私は彼の隣に立ち、イチゴの先を流れ落ちるチョコの中に押し込む。すると面白いほどあっという間にイチゴがチョコ色に染められていく。 「あ、イチゴも美味しそうだね」  マシュマロを口に入れたまま彼は美味しそうに笑った。
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