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「うん、美味しいよ」
甘いチョコレートが最初に広がったかと思うと、少し噛んだだけでイチゴの酸味が一瞬にして口いっぱいに広がっていく。甘いのは初めだけだった。酸っぱさの方が強く刻まれる。でも、これくらいが私は好きかもしれない。
「あ、本当だ。イチゴもいいね。マシュマロだと甘いだけだけど、これだと酸味が残るから口の中がさっぱりする」
そう言って何か新しい発見でもしたかのように喜ぶ彼に、私は思わず笑ってしまった。
そこからしばらく私たちは、目の前に並ぶカラフルなスイーツたちを堪能するべく目につくものから口に入れては感想を言い合った。
彼は時々何かを話し出すタイミングを探す素振りを見せたが、私はそれに少しだけ気づかないフリをしてしまった。ただ、純粋にその場を楽しみたかったから。でも、それは彼の名前を思い出せない罪悪感を薄めるためだったのかもしれない。
テーブルの上を一通り満足するまで口にした私たちは、さすがにちょっと甘いものに飽きてしまった。
「コーヒーでも持ってくるね」
そう言って中庭のベンチに私を残し、彼は店内へと戻っていった。
「うーん、本当に思い出せない…」
遠ざかっていく彼の背中を見つめながら、私は思わずため息を漏らしていた。
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