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――気付いたらベッドの上に寝ていた。
まず目に入ったのは見知らぬ白い天井。そして周囲で忙しなく動き回る白衣の人々……どうやらそこは病院の一室、しかも集中治療室らしかった。
医者や看護師の話によれば、私はベロンベロンに酔っ払った挙げ句どこかの階段から派手に転げ落ち、そのまま救急車でこの病院へ運び込まれたのだという。
強く頭を打っていたとかで、脳の周囲に血が溜まり、一時は危篤状態だったんだとか。たまたま脳外科手術の経験が豊富な先生がいて、その先生の処置ですんでのところで助かったのだと、看護師さんが話してくれた。
そのまま一週間ほど意識不明の状態が続き、先程ようやく目覚めたというわけだ。
医者の話では、今のところ脳に大きな損傷な見られないけど、今後再出血しないかどうか、記憶や言葉、体の動きに異常が出ていないかどうか慎重に経過観察が必要なため、長期間の入院が必要だという。
なんだか大変なことになってしまったけど、まあ、死ななかった分だけ運が良いのかもしれない。
……それに、意識を失っている間に面白いものも見れたし。
見知らぬ商店街に佇む『あなたの人生を一冊の本にします』と謳った、あの店。そこで出会った二人の男性と、彼らの人生を形にしたという二冊の本。
あれは、混濁した意識が見せた幻と言うには、あまりにもリアリティのありすぎる光景だった。引き戸を開ける間隔も、腰掛けたソファの感触も、中年の女性店員の声も、そのどれもがクリアな記憶として頭の中に残っている。
もしかするとあれは、いわゆる「臨死体験」というやつだったのかもしれない。
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