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――目覚めてから数日後、短時間だけスマホをいじる許可をもらった私は、ずっと気になっていたことを調べ始めた。
「斉藤三郎」と「金本喜一郎」、この二人の名前をネットで検索してみたのだ。
残念ながら斎藤さんの方はめぼしい検索結果は出なかったけど、金本さんの方は……確かな情報が見つかった。
『訃報:金本喜一郎氏(享年76才)。元○×商事(清算済み)社長』
新聞社のニュース記事に、とても短い訃報が載っていたのだ。亡くなった日は、私が階段落ちしたのと同じ日付だった。
○×商事は、かつてはテレビCMも沢山打っていた消費者金融だったけど、確か十年以上前に倒産していたはずだ。残念ながら社長の顔写真などは見付からなかったので、私が見た人が本当にこの金本喜一郎だったのか、確かめようはないんだけど……。
金本さんの人生を形にした本は、立派な装丁だったけどやけにページが少なかった。それを目にした金本さんは、最初は怒っていたけど、中身を見た途端に物凄くがっかりして――でもそれ以上に何かに納得して、店の奥へと姿を消していった。
……一体、あの本には何が記されていたんだろう? 斎藤さんの本には、彼の人生の様々な場面を短歌にしたものが記されていたらしいけど。
そしてもし、私の本があの場で出来上がっていたら、一体どんな本になっていたんだろう? 途中で出てきてしまった紙は全て真っ白だったけど、まさか……?
『またのご来店をお待ちしております。どうか、良き本となる人生を――』
あの店員の最後の言葉が蘇る。「良き本となる人生」と言われても、それはどんな人生を指すのやら全く見当もつかない。
まずは、きちんと体を治して、社会復帰して。人生のあれこれについては、それから考えよう――。
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