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一言で言ってしまうと、「それ」は巨大な木製の箱だった。大人が一人くらい入れそうな大きな箱だ。
箱の中央あたりには、カメラのレンズらしき円筒形のものが取り付けられていて、一番下には四角い穴がぽっかりと口を開けている。箱の向かって右側には、手回し型のクランク・ハンドルも付いていた。
何かの装置らしいけど、一体なんだろう? 無駄に巨大なカメラにも見えるけど……。
「――お待たせいたしました。斉藤様、斉藤三郎様。装置の前までいらしてください」
いつの間にか畳の上に移動していた例の女性店員が、先客の一人に声をかける。その声に、先客の内、痩せている方の男性がよろよろと立ち上がった。顔は見えないけど頭は見事に禿げ上がっていて、かなりのご高齢に見える。
斉藤と呼ばれた男性が装置の前に立つと、店員がおもむろにハンドルを回し始めた。ゆっくりと時計回りに、グルグルグルグルと――。
――ガションガタンゴトン、ゴゴゴゴ、ガガ、ギコン。
装置はハンドルの回転に合わせて、なんとも言えない味わい深い音を奏で始める。ただの動作音のはずなのに、どこかオルゴールを思わせるリズムで、不思議と不快感はない。
そして、それが三分くらい続いた頃だろうか? 不意に「ゴトン!」と大きな音がしたかと思えば、装置に開いた四角い穴から、何かが飛び出してきて、斉藤さんの足元まで滑っていった。
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