あなたの人生を一冊の本にします

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 ――それは一冊の本だった。  遠目にも分かる質素な、飾り気のない文庫本だ。流石に遠すぎてタイトルまでは分からない。 「どうぞ、お取りください」  店員に促されて、斎藤さんが足元の本を手に取り、静かにめくり始める。  静かな店内に、パラパラと斉藤さんが本をめくる音だけが響く。そして――。 「なるほど、短歌ですか。これは、私の人生の様々な場面を、短歌にしたものですね。……思えば、私の人生は常に短歌と共にありました。妻へのプロポーズにも短歌をしたためたものですが……。ああ、すっかり忘れていました。  結構なものを……ありがとうございます」  穏やかな、深い納得を感じさせる声で、斎藤さんが店員にお礼を言った。そしてこちらに振り向くと、太っちょの男性と私に向かって「では、お先に」と一礼し、店の奥の方へと姿を消す。  はて、帰るのに何で店の奥に……?
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