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「――では、続きまして。金本様、金本喜一郎様。装置の前までいらしてください」
次に呼ばれたのは太っちょの男性だった。その大きな体を揺らしながらゆっくりと立ち上がり、億劫そうに装置の前へと進む。
「君ぃ、きちんと私に相応しい本にしてくれるんだろうね? さっきの人みたいな貧相な文庫本じゃ困るぞ。○×商事の創業者たる私にぴったりの本を頼むぞ!」
「……私共はお客様の人生を本にするだけでございますので」
やけに偉そうな金本さんの態度に、店員がかしこまる。それを見て何を思ったのか、金本さんはフンッと鼻を鳴らして改めて装置に向き合った。
……なんだか偉そうで嫌な感じの人だ。○×商事と言っていたけど、確か一昔前にそんな名前の消費者金融が幅を利かせていたような?
――ガションガタンゴトン、ゴゴゴゴ、ガガ、ギコン。
店員がおもむろにハンドルを回し始めると、再びあの小気味良い音が店内に響き始めた。金本さんの態度は不愉快だったけど、この音はなんとも心地よい。
ややあって、再び「ゴトン!」という音がして四角い穴から本が飛び出してきた。
(うわぁ……)
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