第九章 盂蘭盆会

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「転居先はどこにてもよし澱ゆ出でむ方々めぐるが流人ごとしも」 「こは何ぞ空き部屋尽くしの団地なり雇用促進住宅とか、花冷えす」 「愛しきは中庭遊ぶ乙女子らすさぶすまひに負けじとあらな」 「引っ越せどなほ追い来たるストーカー誰か信ずる17年つくを」 「しゑやしゑ、追ひ続けなほつきまくるクズうから、しゑや、ただ、しゑや」 ※「しゑや」=「ええい、いまいましい」の意の感嘆符です。奈良時代の大伴氏のゴッド・マザーとでも称すべき坂上郎女(さかのうえのいらつめ)の和歌から知りました。蛇足かも知れませんがこの人の和歌はいい…というか、絶品ですよ。一番好きな歌は「青山を横ぎる雲のいちしろく我と笑まして人に知らゆな(青山の上にかかるひとすじの雲を見るならば、それをあなたに微笑みかける私の眉と思って、どうぞあなたも微笑んでくださいね。でもそれを人に知られないでね)」ですが、どうです、このセンス、群抜でしょう?彼女は氏長(うじおさ)たる大伴旅人亡きあと、いまだ若い大伴家持に氏を託すまでの間、女だてらに懸命に大伴氏の存続と繁栄をはかったのです。この彼女の懸命な姿勢も私は非常に好ましく思います。 「さるほどにいかにか塵をすぐすべき去るも去り得ぬ生きも生き得ぬ」  「この団地夜はあやふしヤクザ住む心得つつもタバコがり行く」 「この団地外つ国人(とつくにびと)らの数多住む日頃の憂さをタブラで晴らすか」 ※「タブラ」東南アジアの打楽器 「目をやれば鉢植え苗木のそよぐなり甲斐なきわれに託すが痛し」 「楽しみは8月4日の花火なり県内一とか我が憂さ晴らせ」 「勇壮の景色なるかな五階より丹沢山ろく野分行く見ゆ」 「盂蘭盆会さかさづりなるこの身をば供養せなむやつれなき世人」 ※「盂蘭盆会」:「うらぼんえ」死者が地獄で逆さ吊りになっていること。これを供養すること。現世に逆さ吊りのようなわが身をもじって詠みました。 「ひとはみなともきしろかも少なくも夜は寝らるる我のみエルム」 ※「ともきしろかも」:うらやましいことだなあ 「うつつだにさせぬ馬頭らのわざすさぶああ苦しきは我、我、寝かぬ」 「いときつくいとわりなくもなりにけり悪鬼のすさびははしたなきかな」 「眠し眠しただ眠しいま三時…なにゆえ我はフレディ間に間に」 「我ほどに不幸の男居らぬべし居らばおしへよ眠れぬ人を」
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