第二章 海を渡る風

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第二章 海を渡る風

 若いころ世界を放浪して歩きました(ユーラシア大陸ほぼ一周)。バックパッカーの走りです…と云うよりはランボー信奉者だったと云えましょう。育ててくれた父母をかえりみず、裕福でもない家庭の事情をもかえりみずに、長男たる私は家から出奔してしまったのです。いったいなんのために…?言い分けを並べればきりがありません。ただ単純に云うならばランボーのサンサシオンの「わが放浪」の高揚が、「酔いどれ船」の魂の航海が、そしてそれらへ誘うラ・パロマの別れの哀愁が胸にこもっていたからです。そして何よりもランボーがみずからへのしがらみから、またうざったくって仕方がなかったフランス社会から逃避したごとくに、うざくって、臭くって仕方がない自分自身から、そしてその投影として見ていたのだろう日本社会から私は逃避したかった…それが出奔の因だったろうと思います。しかし…若気の無明なるかな、どうして自分から逃げ出すことなどできましょうか。場所さえ変えるなら生き直せるのでしょうか。以下の歌編にはそれへの気づきと後悔が充ちていますがしかし当初にはまだありません。むしろサンサシオンの高揚があるかとも存じます。では、若かりし頃の和歌のサンサシオンからどうぞお入りください…。
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