第1話

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 私に手を差し伸べる。こちらを見るふたつの薄水色の目。切りとって水彩画にしたら、どんなに素敵だろう。  私はその手をとって、立ち上がる。痛む膝。でもそんなことはどうでもいい。 「……聴く」  座って、柵にもたれてその人と並んで。  イヤホンをひとつずつ。その人のとなりには裸のレモン。  流れるようなそのピアノの音色に。今地上に降り立ったばかりのような美しいその人に。 「……っ。……ふあ、ふあああん……」   私はなぜか泣いてしまう。満月を見ながら。  こんなに泣くのは、きっと子供の時以来だ――。
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