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私は若干、必死。このアイスブルーの目をした人を、逃したくない。
こんな綺麗な人間は初めて見た。ここで大人しく別れてしまえば、二度と会うことはないだろう。私にはもう飛び降り自殺をする勇気はない。あのビルのへりに立つことも、きっと一生ない。
だから今しかない。今この人を捕まえてしまわなければ、もうこの人に会うことはないに違いない。
その人は私を見て……少し考えるような表情になる。綺麗な顔。整っていて、肌は陶器みたい。
「もちろん君……未成年だよね?」
「う、うん。十六。高二」
「高二かあ……。未成年は怒られるんだよね。だってこっちが捕まっちゃうから」
つ、捕まっちゃう? 私はぎょっとする。この人は……何の話をしているの?
「でも、俺も同じく未成年だから、まーいっか。レモン持って帰らなきゃ。ついて来るならそれでもいいよ。……勇気があればの話だけど」
そう言ってその人は、再び踵を返す。すたすたと歩き始めるその背中を、私は慌てて追いかける。
「じゃ、ついて行く! どこまで行くの? レモン、何にするの?」
「酒に入れるんだよ。本当について来るの? 勇気があるね。さすが、自殺志願者」
歩きながら見上げるとその人の顔は笑っていた。私の手をとって。
「じゃ、とっとと帰ろっか。どやされるだろうなあ。君がいてくれれば、多少はマシになるかも。お願い、俺を庇ってよね」
そして私は手を引かれ、繁華街をどんどん進む。
私は顔をうつ向けて。でないと、知り合いにすぐに見つかってしまいそうだから。
「はい、ここだよ」
その人は一軒の建物の前で足を止める。ああ、ここ、聞いたことがある……。
その人が重い銀色の扉を開ける。ちりん、とベルの音がして。
薄暗い店内からはピアノ曲が聴こえてくる。黒と赤を基調にした、洗練された内装。そっか、『アリア』はこんな店なんだ……。
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