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「シロ! お前、どこほっつき歩いてたんだ! ちょっと買い物に出せばすぐこれだ。本当にこの野良犬は……」
カウンターの中から、マスターらしき人が怒鳴り声を上げる。シロ、と呼ばれたこの人は、私の後ろに隠れると小さくなって叫んだ。
「ご、ごめん! 違うんだよ、ビルの屋上で女の子が佇んでたからさ! 落ちないように保護したの。人助け! ほら、ちゃんとレモンも買ってきたし」
「だから何でビルの屋上にお前がのぼってるんだ! あそこにはもう行くなと言っただろう! 飼い主の言うことも聞けないなんて、本物の野良犬だ! 出てけ、もうお前に食わせるメシはない!」
すごい剣幕のマスターの怒号に、私の背中で『シロ』が縮み上がる。野良犬……飼い主……。そうか、白いから『シロ』って名前なのね。
「あ……あのう……」
マスターが口を閉じたタイミングを見計らって、私は口を出す。『庇ってよね』と言われたし。
「遅くなって、ごめんなさい。私が引き止めたの。……ドビュッシーが、聴きたくて。死ぬとこ止められちゃったから、引き止めるぐらいの権利、私にはあるでしょう……?」
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