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第4話
うちのお母さんは、『女帝』。
この街の有名人。
まだたったの三十二歳。私を十六で産んだから。
でもお母さんは短期間でこの街でのし上がり。
誰にも文句を言わせない、権力と財力を手にしている。
部屋に帰ってみるとやっぱりお母さんはいなかった。もう一週間以上会っていない。どこに行ったんだろう。
「箱根なんかいいわね」と話していた。電話で。相手は何番目の人か分からなかったけど。
でも箱根程度ならこんなに長期にはならないだろうし。
海外にでも行ったのかな。前にもそんなことがあった。三週間ぐらい帰って来なくて。
擦り切れそうなぐらいに心配していた私に、帰って来たお母さんはあっさりと言ったのよ。
「ただいま。オーロラ、綺麗だったわよー。これ、お土産」
大量のお土産。『世界で一番臭い缶詰』をふたりできゃあきゃあ言いながら開けて。
噴出した臭い汁で、部屋は数週間使用不可になったっけ……。
その時は私も一緒にホテルに連れて行ってくれたから、久しぶりにお母さんとゆっくり話をすることが出来た。お母さんは数店のクラブやスナックのオーナーだけれど、自分で店に立つことはもうない。
その代わりこうやって、私の知らない人とどこかへ出掛けて約束をしてもらうんだという。『お母さんと私の身の安全』と、『新しい店を出すための、大きなお金の融通』を。
そうやってお母さんはこのビルを手に入れた。たった十階建てのビルだけど、数億の価値がある。経営する店の収入はもちろんのこと、ビルのテナント収入もかなりの額だ。
だから、私達の生活は、もう十分に潤っている。
私はキッチンの小さな引き出しに入った、お金の束から毎日一枚を引き抜く。それだけで、私は十分に生きていける。なのにお母さんはまだ満足しない。
「カノンにひもじい思いはさせないからね。お母さん、頑張るから!」
ひもじい思いなんて、生まれてこの方したことないのに。
父親はいなかったけど、私には数え切れないぐらいの父親代わりがいた。ホステスのお姉ちゃん達も、あれこれ世話を焼いてくれたし。
でも確実に、私にはいないものがあった。
それは、『お母さん』。
毎日そばにいてくれて、頷きながら話を聞いてくれる。
そんなただの――『お母さん』。
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